青

空を見上げるのが好きだった。

空を見ると、自分の気持ちが晴れる気がする。つらい時は、大丈夫だよと言ってくれているように思えて、勝手に自分の友達のように思っている。

ある時、大失恋をした。

好きだった人には5年続く彼女がいて、あんまり上手くいっていないんだよねと嘆くような男。でも好きだった。彼女は男付き合いが多いようで、"浮気された事が何度もあるんだ"と下手な作り笑顔で笑っていた。その作り笑顔を見てから、この人の事を私が幸せにしたいと強く思った。

好きな事を言葉にしたら迷惑だ。相手には彼女がいると自分に言い聞かせ、相談を良い子ちゃんのように聞くしかできない私。"あゆは本当にいい子だね"と、優しい笑顔で頭を撫でてくれた。それならいい子の私を選んでよ。

ドライブを終え、カラオケに行く事になった。1人ずつ歌い、盛り上がってきた頃、”あゆ”と名前を呼ばれ、振り返ると彼の唇が私の唇に当たる。喜んではいけないのに、嬉しいの感情が占める。彼で頭がいっぱいで、私の事を見てくれてるんだと幸せでいっぱいだった。

帰る間際、”彼女とはちゃんと別れようと決めてたんだ。あゆを迎えに行くから”とまっすぐな私の顔を見ながら言ってくれた。二人顔を見合わせて笑いあい、手を繋がれた瞬間、彼の携帯に着信が鳴る。

彼女からだった。一瞬顔が強張っているように見えた。しばらく会っていないらしく、今から会いに来てという内容だったらしい。だから、今から会って別れ話をしてくると彼は言う。ばいばいの時、”気を付けて行ってきてね”しか言えなかった。

彼を信じて待とうと決め、次の日SNSを見ると彼の投稿に彼女と仲良く話している動画の投稿。見た瞬間、心臓が止まりそうになった。お互いSNSはフォローしているのに、わざわざ載せている。

しばらくして、彼から連絡があった。”本当にごめん。”しばらく涙が止まらなくて、今までの思い出が蘇る。彼の全てが好きだった。自分が幸せにしたいと心の底から思っていた。

”大丈夫。お幸せに”の言葉を震える手で打ち、連絡先を削除した。彼女がいる人を好きになった自分が悪い。相手は悪くない。そして彼女さん、謝って許される事じゃないけど、本当にごめんなさい。

心がぽっかり穴が開いた。あまり食も喉に通らない。しばらく、何をしている時も顔を思い出しては泣きそうになっていた。そんな時、フラッと外に出た。

いつも通りの道。ふいに上を見る。青空だった。最近は天気が悪く、曇っていたのに。なんで今日に限って青空なの。

空を見ながら深呼吸をする。少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。よし、頑張るぞと自分に言い聞かせて、私は歩き出す。いつかもっともっと可愛くなって見返してみせるからね。

そして、少しだけだったけどほんの少しだけ、幸せだったよ。ありがとう。